昨夜カネタタキを聞いた。玄関脇のまんさくの木の下あたりの草むらの闇で盛んに鳴いていた。カネタタキは漢字では「鉦叩」と書く。僕はその姿をまだ見たことがない。その鳴き声は、美しい澄んだ声である。かすかに規則正しくチン、チンと心にひびいてくる。鈴虫のリーンリーンと鳴く声もいいが、僕は夜中にどこからともなくチンチンと鳴くカネタタキの声を聞くのが好きだ。枕草子40段に
『…蓑虫、いとあはれなり。鬼のうみたりければ、「親に似て、これも恐ろしき心あらむ」とて、親の、あやしき衣ひき着せて、「いま、秋風吹かむをりぞ、来むとする。待てよ」といひおきて、逃げていにけるも知らず、風の音をきき知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ」と、はかなげに鳴く、いみじうあはれなり』
とあるが、ここに出でくる蓑虫はカネタタキのことだという。これを受けて高浜虚子の句に
蓑虫の父よと鳴きて母も無し 虚子
とあるがこれもカネタタキのことを読んだのだろう。虚子の娘の星野立子の句にカネタタキの句がある。
暁は宵より淋し鉦叩 星野立子
こんなことを考えていたらすっかり夜更かしをしてしまった。明け方外に出たら、カネタタキはまだ鳴いていた。
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