H君は高校時代暴れん坊だった。中高生の頃は野球少年だったが、高校に入ってロックに夢中になった。学園祭などではバンドのメンバーたちと体育館のステージに立ち、みんなを熱狂させたものだ。羽目をはずしルール違反をして教師たちを悩ませたり、時には保護者同伴で呼び出されて校長からお灸をすえられたこともあった。そんな席には当時教頭だった僕も同席したものだ。その彼から突然電話があった。もう彼が卒業してから20年近くが経っているはずだ。彼は、日頃の無沙汰を詫びた上で、最近やっと身も安定し会社勤めをしている、遅ればせながら結婚することになったので、先生にはぜひ式に出ていただきたいが、いいだろうか、と言う。もちろん否やのあろうか。僕はH君の話を聞きながら、彼の180pを超える堂々たる体躯とハンサムな顔を思い出していた…。
昨日、彼の結婚式があった。老舗の割烹が経営する式場に出かけていくと、H君のお母さんが玄関まで出迎えてくれている。もう結婚しているという妹さんも一緒にである。女手一つでH君と妹をここまで育てたお母さんもどんな嬉しいことか。100名ほどの出席者は圧倒的に友人たちで占められている。他に会社の関係者が数人と両家の親族、それに学校関係は僕だけ。友人たちが集まって二人の結婚を賑やかに祝福するというH君らしい和やかな披露宴であった。だから媒酌人もいない。H君の会社の社長さんはこんなことを挨拶で述べた。
「H君は勤めてからまだ2年少々。いつかか必ずわが社を背負って立つ逸材。30歳を過ぎたものを採用したのはH君が初めてである。試験を受け、面接までに残った。採用を迷っている受験者が一人いる、という報告が下から上がってきた。それで私が面接して決定した。」
その会社名を聞けば誰でも知っている一流企業の社長がそういうのであった。社長が社長なら、それに応えているH君もH君である。僕は聞いていてジンとなった。
もう一つ書いておきたい。新婦には5歳の男の子がある。H君は初婚である。3人並ん睦まじくみんなの前に立った姿が爽やかで気持ちがよかった。「昨日、この子の頭をバリカンで刈ったんですよ」と、その子のクリクリ頭をなでるH君を見ながら、僕はまたジンとなった。
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