僕はときどき上野の国立博物館へ出かけていく。展示されている作品は、国宝をはじめ日本を代表する第一級の品ばかりである。ある時は刀剣を見ていることもある。また埴輪や土器に見入ることもある。古い絵巻物や甲冑を眺めることもある。仏像の前に立ち尽くしていることもある。
その日は他に用事がありちょっと間があった。例によって国立博物館で時間をつぶした。本館1Fの18室の出口近くに、その絵はあった。
夜の停車場のベンチに老人と若い女性が座っている。おそらく服装からして大正か昭和の初期かもしれない。左上から電灯の黄色い光がベンチに腰掛けている二人にさしている。年老いた父は羽織袴で、下駄をはき、黒い蝙蝠傘に両手をもたせてうつむき加減に目をつぶっている。横の和服の女性は疲れ切った様子で、行李にもたれて顔を伏せている。女性の足は白足袋に草履。膝の上に半開きになった扇子が置かれている。老人と同じく女性も婦人用の黒い雨傘を身に立てかけている。沈鬱な心情が画面からあふれている。
駅のベンチでこんな親子の姿を昔はよく見かけたものだ。僕自身にもそんな経験がある。大学を出た年、僕も母親を東京へ呼んだことがあった。母と二人で都内を見て歩き、くたびれてしまい東京駅のベンチに並んで腰かけていたことがあった。そのときのことをこの絵を見ながら僕は思い出していた。その母ももういない。
当時は、鉄道の駅や車内という場は、画家にとって強く惹きつけられる主題であったのだろう。
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